なんば(御堂筋)の自転車道 前編

昨年11月に供用が開始された御堂筋の自転車道は、御堂筋の側道(緩速車線)を自転車通行空間へ転換しようという長年の希望がかなった待望の自転車道でした。

 

難波交差点から南へ200m足らずでしかも東側のみという小規模ながらも、ここは御堂筋の他の区間への拡張に向けたモデル整備という位置づけですから、その成否は今後の自転車通行空間整備にも大きな意味を持つはずです。

 

なのですが、できた自転車道には歩行者が後から後から入ってきて堂々と歩いていますし、自転車の方も、歩道にはみ出してはまた戻ったり、中には自転車道などまるで意に介さず思いつくままの走りようという利用者もいて、何とも無残な光景です。

 

共用開始からもう半年以上が経過、残念ながらこの自転車道の定着状態として認めなければならないでしょうか。

 


この街らしい"自由さ"を感じなくもないですが

 

 ¶ 全般的には歩行者の傍若ぶりが目立つのですが、「これだけ広いスペースをとって走りやすい道を整備してやってもまだルールを守れないとは、自転車というのは本当にどうしようもないものだ」と、自転車に批判的な人たちの見方を、なおさら厳しくさせてしまうかもしれません。

 

筆者の独断と偏見による観察まとめ

  • 自転車道部分を歩く歩行者には、空間の区分の意識は無いか、あっても極めて希薄な様子
  • 全般的には、自転車利用者は自転車道部分を走ろうとしているように伺える
  • しかし自転車道部分を全区間通して辿る利用者は少数で、大抵はどこかで逸れるか、
    もしくはどこか途中から自転車道部分へ入ってくるという経路を辿っている
  • 左側通行を意識している自転車利用者はごく少数
  • 南へ進む自転車に比べて、北へ進む自転車のコース遵守度が明らかに低い

 

大阪市内には、歩行者と自転車との区分を意図して線引きや色分けをした歩道が既に広範に整備されているので、この御堂筋にできた自転車道もそうした「あまり本気に受け取られていない」自転車通行空間と同列に見られているのかもしれないし、 

 

デザイン性を意識した抑制の効いた色づかいが、利用者の認知を妨げているのかもしれません。


 

ですが、
この自転車道の失敗の最大の要因は、交差点毎に歩道に乗り上げる構造にあると思われます。

 

 ¶ 交差点に差し掛かるたびに自転車道が途切れるので当然、自転車の走路は曖昧化します。自転車道が途切れて、自転車道の前にせり出した歩道部分へ信号待ちをする歩行者らが溢れ、またそれを避けようと自転車が自転車道から逸れて歩道側へ走路をとります。そしてその自転車を避けようと、歩行者の一部は自転車道内を歩きだします。そしてまたそうした歩行者を避けようと、たとえ対向の自転車がせっかく左側通行をしていても右側へ走路をとったり、あるいは歩道側へあふれ出る... といった具合に、走路の乱れは連鎖してゆきます。辺りは大阪随一の繁華街で人出は終日絶えませんから、走路の乱れはなかなか収束されないまま続いてゆきます。

 

言葉にすると、わざわざ面倒な理屈付けをしているような感じにもなりますが、現地に身を置いてしばらく動きを追っていれば上記次第を理解するのは難しいことではないでしょう。

 

ここは自転車横断帯の出番では
ここは自転車横断帯の出番では
歩道非乗り上げと自転車横断帯による自転車道の交差点処理例(大阪市港区) 
歩道非乗り上げと自転車横断帯による自転車道の交差点処理例(大阪市港区) 
VRU(歩行者と自転車利用者)優先風の作りをしながら、こうした個所になお車優先の発想から抜けきれないことが伺えます
VRU(歩行者と自転車利用者)優先風の作りをしながら、こうした個所になお車優先の発想から抜けきれないことが伺えます

 

¶ マウントアップ部の角の形状はもう少し考慮されてもいいのでは...

少数ですが、旋回しきれずに歩道へはみ出す例が見られます。緑地/緩衝帯を過ぎてはじめてハンドルを切るという運転技術の問題もあるでしょうが、しかし自転車利用者の大多数はそのような素人です。仮に設計規定上の問題はなかったとしても、緑地/緩衝帯の隅角部は円形にするという発想はあってもいいかと思います。-現時点では考えすぎだと一蹴されそうですが。 

 

 

 ¶ 自転車利用者のみならず、歩行者にもきちんと自転車道部分を認知させ、自転車道部分を自ずとrespect(尊重)させる仕組みが構造的に損なわれている、とすれば自転車道のカオス状況は決してマナーの問題ではないでしょう。上記の筆者の観察には意識要因もありますが、意識は一定レベルのインフラがあってこそ説得力を持つものではないでしょうか。 

 

 恐らく、かようなへっぽこの指摘を受けるまでもなく、設計に携わる方はそのことは分かっておられると思うのですが(少なくとも、そうだと思いたい)、なぜかこうしたダメ設計は繰り返されて、貴重な自転車道の整備機会が浪費されています。

 

 

いちょう並木の間を抜ける シックでスマートな外観の素晴らしい自転車道が、このまま失敗例に終わることなく、改良・進化されてゆくのを願います。

 

 

≪補足≫

『御堂筋の道路空間再編に向けたモデル整備』(大阪市建設局)より抜粋・加工
『御堂筋の道路空間再編に向けたモデル整備』(大阪市建設局)より抜粋・加工

この整備で面白いのは北端の交差点部で車線1本分ほど歩道を拡げていることです。

 

横断歩道が少しでも短くなるのは、とりわけ高齢化が進むなかで交通安全上好ましいことで、これはおそらく交通安全や福祉の観点からの施策なのでしょう。

 

また、信号待ちの待機スペースに余裕が生まれる分、歩行者が自転車道やその延長部分を塞いでしまうことを少しでも減らせるという点で、自転車にもメリットがあるかと思います。

 

多車線道路を一気に横断させず、何らかの方策により横断距離の短縮を計ることは、先進国の交通安全施策で常識になりつつあるようです。

ここでそうした考えが踏まえられたとするなら大いに歓迎すべきで、他の道路設計や改修などにも広がっていってくれればと思います。

御堂筋の本線は4車線ですが、千日前通りから南は5車線でした
御堂筋の本線は4車線ですが、千日前通りから南は5車線でした

 

ただここで残念なのは、せり出しが1か所に留まっていることでしょうか。この歩道せり出しによって、ここから南がドライバーにとって恰好の駐停車スペースになっているのですが、現状は車線のままのようです。

 

この一つ南の交差点(難波3丁目)でも同様のせり出しを行って、bay状になる部分をパーキング・チケットにしてしまえばいいのではないか、などと思うのですが。ピーク時はいざ知らず、大部分の時間帯は余力のある道で、だからこそ駐停車ははびこっているのでしょうから。