児童図書館から中之島の道づくりを構想してみた(後編)

 前編で、屋外読書の適地について隣接地や周辺部を見てみました。結果、図書館の建設予定地の南側にある広場・緑地が、ベターなのではないかという見方に行き着きました。

 

以下、図書館南の広場・緑地(以下「広場」と略)を屋外読書場所と仮定して、この周辺の道路について見てみます(ようやく本題です)。

 

そもそもなぜ、図書館の屋外読書スペースと周辺の道路が関わってくるのかというと、前編でも少し見ましたが、大きく迂回する形になる図書館からの移動経路にあります。 

 

 移動距離はバラ園へ出るのと大差ないのですが、「広場」は図書館の目の前に位置しています。中央公会堂前の横断歩道を渡る経路の距離約170m に対し、図書館と広場との距離は約2~30m度とみられ、その差は歴然です。 

 

それがこうして迂回する形となるのは、中央公会堂前まで出なければ図書館の南に横たわる道路(中之島通)を横断できる個所がないことと、さらに中ノ島通のこの区間が、柵によって塞がれていることによります。

 この区間、横断禁止の標識は見当たらないので、この道を任意の地点で横断することは、必ずしも違法にはならないのですが、柵のおかげで、敢えて横断するのも危なっかしい状況になっています。車通りはさほど多くもないのですが、規制速度40キロで決して低速ではなく、図書館を利用する児童やその保護者の方々にも横断は奨められることではありません。

 

 しかし、目的の場所を眼の前にしながら直行できず、大きく迂回せざるを得ない形状は、通行者の無理な横断を誘発します。 現にそのような様子がしばしば観察できます。 


 

新たな施設(児童図書館)の建設は、この状況に拍車をかけることが懸念されます。 

 

 なお、この「横断防止柵」と呼ばれる柵は、実は歩行者のためにあるのではありません。例えば酔っ払い運転のような、制御を失った車が歩道に乗り上げるのを防いでくれるものと思っておいでの方もおられるでかもしれませんが、この柵に歩行者の防御は期待されていません(もし本当に保護が必要なら、そこにはガードレールが設けられるはずです)。

横断防止柵は、「安全確保」の名目のもと、車道へ歩行者が侵入するのを防ぐことで車の走行の快適性を確保しようとする、車への配慮を優先した設備です。

 

中之島通付近の「バリア性」について、見てみます。

 

中之島通の横断防止柵(図:青の線)は、中央公会堂前交差点から東へ延びて、堺筋に合流した先にも途切れずに続いています。そのおかげで、たとえば難波橋の南詰から図書館へ行く際、もし途中の交差点が横断できたなら約150m程度のところを、現状では400m以上の行程を強いられることになります(by『キョリ測』)。

 

中之島通の横断防止柵と歩行経路
中之島通の横断防止柵と歩行経路

 

 中之島通の横断防止柵(図:青の線)は、中央公会堂前交差点から東へ延びて、堺筋に合流した先にも途切れずに続いています。そのおかげで、たとえば難波橋の南詰から図書館へ行く際、もし途中の交差点が横断できたなら約150m程度のところを、現状では400m以上の行程を強いられることになります(by『キョリ測』)。

 

さらに中之島通と堺筋の合流する丁字形の交差部は、信号も横断歩道も設けられていない、クルマオンリーの交差点なので、中之島方面だけでなく、難波橋を渡る歩行者・自転車もここで遮られてしまっています。

 

堺筋との合流部(南向)
堺筋との合流部(南向)
堺筋との合流部(東向)
堺筋との合流部(東向)

  

 堺筋は北向一方通行4車線の、御堂筋と並ぶ大阪中心部の主要幹線です。ここでは一方通行路で一般的な自転車の例外規制(逆走許可)はなく、車道を南向きに進むことはできません。

西側(下流)に比べて、東側の歩道が広い。西側では中之島通との交点で通行が遮断されるのと、通行の激しさのために、この橋を渡る自転車の多くは、東側の歩道に流れているようす。
西側(下流)に比べて、東側の歩道が広い。西側では中之島通との交点で通行が遮断されるのと、通行の激しさのために、この橋を渡る自転車の多くは、東側の歩道に流れているようす。

 

ですが、自転車利用の盛んな大阪。それでも車道を通行する自転車もありますが、中之島通との交差部はやはりとても危険な難所です。  

中之島通に左折するタクシーと中之島通から堺筋に合流する乗用車(白)。車道を北上する自転車はここを突破せねばなりません。
中之島通に左折するタクシーと中之島通から堺筋に合流する乗用車(白)。車道を北上する自転車はここを突破せねばなりません。

 このように児童図書館の予定地周辺は、クルマを使わない利用者にとって、アクセス性に問題を抱えている場所です。 

 

 これは予断にすぎませんが、建設される図書館には、駐車場は付かないと予想されます。敷地の制約もですし館のすぐ隣には鉄道(京阪)の駅があります。現にお隣の東洋陶磁美術館には来館用の駐車場はなく、公共交通機関の利用を呼びかけています。

 

沿道に駐車を前提にした施設がなければ、中之島通を通るクルマは基本的には通過交通です。その一方で前編の結果は屋外読書という図書館活動の一部ではあるにせよ、この区域の徒歩アクセスの充実を求めていることを示してはいないでしょうか。

 

中央公会堂から東の中之島通が、沿道にクルマの利用先を有しないのにかかわらず、クルマ通行に偏ったインフラで区域を分断しているのだとしたら、この機会に区域周辺をより歩行者(および同じようにクルマを中心にした道づくりの影響を受けている自転者)の安全性、快適性の観点から利用環境を見直しをしてみてはいかがだろうか、というのが、筆者の主張です。

 

 メインの課題は中之島通の分断性です。

 

その解消・低減の手だてとして、いっそ中之島通をカーフリー(クルマを通行不可に)化してしまう考えも浮かびますが、さしあたっては交通静穏化を念頭に、拙速ながら案を提示してみます。 

 

<中之島通>

 ○車線を減らして一方通行化

 ○規制速度の低減

 ○横断防止柵の撤去

 ○横断歩道の追加設置

 ○自転車通行空間の整備

<堺筋>

 ○第一通行帯(最も西側の車線)を削減して自転車道を整備

 

  

 まず現状2車線対面通行の中之島通を1車線に減らします。交通量は確実に減少が見込まれます。さらに規制速度も落とすことで歩行者へのクルマの脅威を各段に減らし、横断防止柵を撤去します。

 

「わざわざ撤去しなくても」と思われるかもしれませんが、物理的のみならず視覚的にも分断してしまう柵の撤去は、この案では外せません(柵に代わってボラードを配置するなどしてもいいかもしれません)。車道と歩道を遮断する構造物を取り払うことで、通行車両が、より歩行者を意識することを期待します。云わば車両をゲスト扱いすることで、一般には強者であるクルマを「通させてもらっている」よう意識させて静穏化を計るのは、欧米では多くの実績があり、日本でも多くの専門家には知られている手法です。

 

 車道を減らしたスペースには、自転車の通行空間を整備し、横断歩道を新設します。

 

また、中之島通に接続している堺筋にも自転車通行空間を設けます。中之島通が橋を通して他の街区とつながっている以上、堺筋の難波橋部分は一体で検討されるべきだからです。難波橋の歩道部での歩行者との錯綜を解消し、危険をおして車道を通行している自転者を保護し、さらに堺筋の現状のゆえに利用を避けている自転者の利用も見込みます。 空間は現状4車線を3車線に減らすことで確保します。

※自転車通行空間の整備形態

<中之島通>

交通量の特に多くはなく規制速度も低いので、現在の基準では「車道混在」か「自転車専用レーン」での整備となります。ただし、3m前後のまとまった幅員が確保できるのと、堺筋との接続性の点から、車道の両脇に自転車の通行部分を割り振るよりも、双方向の自転車道として整備するのがよいのではないかと思います。 

<堺筋>

規制速度は50km/hですが、交通量の多さから構造物で車道と分離されることが望まれます。また構造上、中之島通に離合できるのは西(下流)側だけになること、逆走許可の規制がないことや、堺筋の総幅員等から、西側に双方向型の自転車道を設けるのが妥当ではないかと考えます。

 

 

中之島通だけでなく重幹線路の堺筋の車線を減らすなど、寝言を言うにも程があるとばかりに一蹴されるのかもしれませんが、堺筋の第一車線は中之島通への出入用レーンであり、現状4本のうち最も流量の少ない車線です。中之島通の一方通行化が実現するなら必ずしも非現実的ではないでしょう(なお中之島の中央公会堂周辺は既に、「なにわっ子ホリデー」というホコ天施策が何年も前から実施されていて、日・祝日でのカーフリーが実現しています)。 

 


 

 以上、拙案のあらましです。横断歩道の位置が未定、一方通行の方向が未定、そもそも交通量の把握なしに車線削減を掲げる無謀さとか、素案と言うのも烏滸がましい粗案でしょう。しかし具体化の見込みのない中で細部の作りこみは時間・労力の不経済であり、それ以前にへっぽこ小生の手に余る業です。僅かでも見所ありと思われた方は、各々にて掘り下げていただければ幸いです。

 

日本でもとりわけ自転車利用の盛んなまちである大阪は、その利用度と都市基盤の齟齬は相当に大きいのですが、その単純な事実認識が市民になかなか共有されずにいます。インフラ整備を二義的な課題にしてしまう「自転車は車道」という掛け声による認知を主体にした施策と、「マナー」という内実の不明な用語の濫用で、自転車のマイナス面を過度に利用者側に負わせる意識誘導がまかり通っています。

 

大阪市の『自転車通行環境整備計画』(H28)は、大阪市の中心部に「高密度な自転車ネットワークを形成」する(といっても0.5km間隔とのこと)としていますが、管見の限りでは具体案の提示はまだのようです。ついては以上の認識のもと、中之島を題材に、多少欲張りめの構想(妄想)を先回りして提示させていただこうと思った次第です。